2011/09/10 Category : 雑記帖 MYSTERY ZONEへようこそ (読みきりフィクション) 右上の略図は、私の住んでいる家の近く、犬の散歩のコースを示したものです。私が今の家に越してから早2年になろうとしていますが、自分の健康のため、犬の健康のため、よほど天候が悪くない限り毎日犬の散歩に出かけます。とはいっても、毎日会社から帰ってからなので、四季を問わず夜の散歩がほとんどです。午後6時であったり、8時すぎであったり、特に帰りが遅かった日は夜中の12時すぎに行ったりもします。夜の散歩に行くようになってから何週間か過ぎたころ、散歩の途中で背の大きな男に出会いました。その男はタバコを咥えていました。私は3匹の犬を連れていますので、犬たちがその男に喰ってかからないよう注意しながらその男とすれ違いました。犬たちはやはり、その男に「ウー」と唸り声を上げました。すれ違ったあとには、タバコの残り香だけが漂っていました。それ以来、何日か何週間かおきにその男と出くわしましたが、私はとくに気にとめてはいませんでした。春が来て、夏が来て、秋が過ぎ、冬が過ぎて行きました。もちろん、散歩の途中で出くわすのはその男ばかりではありません。夕方6時頃だと、他の犬の散歩に出くわすこともありますし、老夫婦の散歩に出くわすこともあります。夜8時を過ぎるとあまり他の犬に出くわすこともないので、私はだいたいそういう時間帯に出るようにしていました。それにしても、忘れた頃に必ずその男に出くわします。そして、その男は、いつも必ずタバコを咥えているのです。どこの人なのだろうか?私は出くわすたびに思いました。犬を連れている訳でもなし、ジョギングとも思えません。タバコを咥えたままジョギングするとは思えないからです。最初は、おそらくその男はバスで通勤していて、北側にあるバス停から降りて来るのだろうと思いました。でも不思議なのは、A,B,C,D,Eどのポイントでも出くわすことなのです。しかも、歩く方向が一定していないのです。私自身、犬の気分にあわせていろいろな方向へ歩きます。B→Eであったり、D→Eであったりその日によって違います。私の家の周りは田舎なので街灯がほとんどありません。せいぜい500mおきにあるかないかといったところです。特に沼のまわりなどは民家はありませんから、街灯など必要ないのでしょう。私の家のあたりは民家が20棟くらい密集していますから当然街灯があります。でも、沼の方へ行くと街灯らしきものは、Dのあたりにひとつあるだけなのです。だから、月の出ていない夜はほぼ闇に包まれてしまいます。沼の周りは不気味なほど静かで、人気(ひとけ)もなく、また車の往来もありません。大人でも、一人では犬でも連れていない限り薄気味の悪いところです。その沼は、江戸時代からあるらしく、今では農業潅漑用の小さな(200m四方くらい)沼になっていますが、私の幼少の頃は、周囲2~3kmはある湿地帯の中にあったような気がします。だから、どんないわくつきかはわかりません。ただ、昼間はまだしも夜は薄気味が悪いことは確かです。先日のことです。その日は闇夜で、私は犬とともにDからAの方向へ歩いていました。そして、Aのポイントにさしかかったとき、ふと、「今日あたり、出るかな?」と思ったのです。というのも、私は、冗談半分でその男が幽霊なのではないかと思うようになっていました。だから、そう思ったのです。犬はただ歩くだけではなく、少し歩くたびにいわゆる、マーキングをするのです。それも3匹なので、交互に、実に頻繁に立ち止まります。私は、犬が用を足すのを見届け、顔を上げました。すると、20~30m先に赤い点が、ぼーっと見えました。その赤い点は、徐々に近づいて来ます。それが、タバコの火だと気付くにはさほど時間はかかりませんでした。私は、背筋がゾッとしました。出た!と思いました。それが近づくにつれ、犬も唸り声をあげています。私は立ち止まり、犬があばれないようしっかりと引き綱を握り締め、それが通り過ぎるのを待ちました。果たして、やはり、あの男でした。とはいえ、顔を確認した訳ではありません。真っ暗で見えないのと、気味悪さで見れないのと両方です。その男が行き過ぎてから、「本当に幽霊かも」と思いました。ふと、私を「恐いもの見たさ」のような好奇心が襲いました。私はその男の後をつけてみようと思ったのです。足音を立てずに20~30m距離をおいていれば気付かれないだろうと思ったのです。私は、Uターンし、その男の後ろを歩きはじめました。20~30mのつもりが、50mくらい先を男は歩いていました。その男は意外と足早なようでした。男の後にはタバコの煙だけが漂っています。でも、いつの間にか、タバコの赤い火は見えなくなっていました。踏んづけて消したのか、体に隠れて見えないのかはわかりません。タバコのにおいもしなくなりました。もうそろそろ、その男はDの路地にさしかかるはずでした。Dのあたりは街灯で明るくなっています。その男がDの路地をどちらの方向へ歩いて行くのか見定める必要があるのです。私は暗闇の中からじっと目を凝らしてその男の行方を追いました。しかし、見失ってしまったのです。Dの路地は明るいですから、その男が路地にさしかかれば、その姿が見えるはずでした。しかし私には見えなかったのです。あれ?と思っているうち、私自身がDの路地についてしまいました。やはり、左右前後、男の姿はありません。AからDの間には脇道などないのです。ましてや、沼のほとりの道ですから…。私はキツネにつままれたような気分になりました。「何だったのだろう?本当に幽霊?」と思わずにはいられませんでした。翌日、私はその出来事を会社の同僚に話してみました。果たして、その人は半信半疑といった感じでした。それもそのはずです。私自身も信じられない出来事だったのですから。しかし…、それから数日後、よせばいいのに、私はまたしてもその沼のほとりを犬と一緒に歩いていました。その夜は月が出ていて、けっして暗闇ではありませんでした。私はBからEの方へ歩き、バス停の手前でUターンして、Eの路地をAの方向へと歩いて行きました。「出るかな?」やはり私は、恐いもの見たさでそう思っていました。そして…、Aのあたりで犬の小用を見届け顔を上げたとき、またしても視界の先に赤い点が見えたのです。前回とは違って、「幽霊ではないか?」という先入観のようなものがあっただけに、私の体は凍り付きました。月明かりで比較的明るいのに、なぜかその男の顔は見えませんでした。男はいつものように私と3匹の犬のそばを通り過ぎて行きました。私は、気味が悪いとは思いつつも、「もう一度正体を確かめてみよう」という気になりました。そして、すぐにUターンし、その男の10mくらい後をついて行くことにしました。でもEの路地まで来て、私はさっき以上に体が凍り付きました。やはり、男の姿は消えていたのです。Eのあたりには街灯はありませんが、月明かりなので、まっすぐか、左右どちらかに行ったのであればまだ姿が見えるはずなのです。私は茫然と立ちすくみました。あとに残っていたのは、やはりタバコの残り香だけでした。これは最近あった本当のお話しです。それにしても「あれは何だったのだろう?」って、いまだに不思議に思います。ただ共通していることは、その男と出会うのは必ず沼の近くだということと、必ずタバコを咥えているということなのです。散歩のコースは他にもありますが、沼の近く以外でその男と出くわしたことはないのです。そして、今日もまた…、散歩の時刻が近づいて来ました…。おわり【原案:2000.6.20】 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword