2011/09/10 Category : 雑記帖 ハチの恐怖 これは今からおよそ7~8年まえ、「MYSTERY ZONEへようこそ」を書いてからしばらく経ったころ、私が実際に体験した話です。MYSTERY…に書いたとおり、その頃うちには3匹の犬がいました。当時私は、朝から会社勤めをして夜8時とか9時頃に帰宅し、帰宅後すぐに犬たちの散歩に行くのが日課でした。ちなみに家族は夕方からの仕事に出ていて、私が帰宅する頃は家には誰もいませんでした。今もそうですが、犬の散歩に行くときは必ず軍手を使うようにしていました。なんせ中型犬を3匹同時に引き綱で連れて行くものですから、素手ではちょっときびしいものがあったのです。私は2Fの自室で散歩着に着替えると、玄関から庭に回りリビング前の軒下に干してあった軍手を両手にはめました。犬散歩用の軍手は、毎日使ったあと縁台あたりに無造作に放置していましたが、洗濯したあとは軒下の物干しに吊るして干していました。つまり、ちょうどその日は軒下に干してあった軍手をそのまま使ったのです。私は、両手に軍手をはめて犬の引き綱に手をかけようとしました。そうしたら…、次の瞬間、左手の薬指のあたりに「針で刺したような」鋭い痛みを感じました。「あれ?とげでも刺さったんだろうか?」なんて、思ったのもつかの間。次の瞬間には、筆舌に尽くしがたい激痛が左手を襲ってきました。大の男がその場にしゃがみこんだほどです。例えて言うなら、まるで、針を手のひらに刺して、そのままゆっくり針を皮膚の中に押し込まれたような痛みでした。1分近くはうずくまっていたでしょうか…、私は激痛が治まると同時に、あわてて軍手を外して地面に叩きつけました。本能的に「何か中にいる!」と思ったからです。そうして反射的にその軍手を靴で踏みにじりました。果たして、軍手を激しく振ってみると、中から黄色と黒のシマ模様のある足長バチが落ちてきました。私は「貴様!よくもっ!」とばかりに、さらに踏みつけました。今になって冷静に考えてみれば、ハチから先に攻撃してきたわけではありませんでした。暖かい?軍手の中でくつろいで?いたら、いきなり人間の指が襲い掛かってきたため反撃に出た…といったところでしょうか?でも、そのときの私にはまったくそんな悠長な考えは及びませんでした。憎い仇をうちのめすかのように、憎悪の念を込めてその足長バチを踏みつけるしかなかったのです。私は、まだ痛む手のひらを気にしながら「それでも散歩には行ってやらなきゃ」と、犬たちと歩き始めました。歩きながら私は「今までこんな経験はなかったな…、ハチに刺されたとて、発熱程度で収まるだろう…」などと安直に考えていました。おおよそ30分後、なんとか無事に犬の散歩から帰ると、私はあわてて「キンカン」を探しました。昔から「毒虫に刺されたらアンモニア水とかキンカンが効く」と聞かされていたからです。しかしそんなときに限って、家中どこを探してもキンカンは見つかりませんでした。まだ秋口だったにもかかわらず、キンカンは夏場に使い切ったきりでした。同様に「マキロン」も買い置きはありませんでした。でもたまたま、救急箱の中に、何かの消毒のときに使った「アクリノール溶液」が残っていたのを思い出し、それで患部を消毒しました。その夜は…、確かに微熱程度で済みました。でも、翌朝目が覚めて、刺された左手を見てびっくりしました。手のひらがまるで野球のグローブのように腫れあがっていたのです。やはり今までにない経験でしたので「こりゃ医者へ行かなきゃ…」と思いました。しかしその日は運悪く?会社だったので、ひとまず出社してから外出して、会社の近くの外科を訪ねることにしました。果たして、私の腫れあがった手のひらを見て外科医は、「よく死ななかったねぇ」とポツリと呟きました。また、キンカンやマキロンがなく、アクリノールで消毒したことを話したら「正解でしたね」と言われました。さらに外科医は続けて「手のひらがこの状態になってから医者に見せに来ても(良い意味で)手遅れなんですよ。もしこの次ハチに刺されたら迷わず救急車を呼んでください。でないと…、この次は命を落としますよ」と言いました。私はそれを聞いてゾッとすると同時に、内心「へぇ、そんなもんかねぇ?」と訝しみました。文献やネットで調べてみれば詳しくわかると思いますが、ハチの毒の恐ろしいのは「2回目から」なのだそうです。それ以降、私は「今度刺されたら救急車…」と、常に警戒することにしました。でも、何となく実感として本当の恐ろしさはわからずにいたのです。それから何年か経ったある日のこと、会社にいた私の携帯に自宅から着信がありました。昼間の自宅には母親がいるはずでした。「何の用だろう?」と出てみると、やはり母親からでしたが、電話の声はかすれて、「ハチに刺された、救急車を呼んでくれ…」というものでした。ハチ・2回目・救急車・死ぬかも…、こういった言葉が私のアタマの中をぐるぐると回りはじめました。私はすぐ119に救急要請をしました。救急隊の基地から私の自宅までは10分程度でしたが、会社から自宅まではどんなに急いでも車で20分はかかりました。そのため、私は自宅には向かわず、消防署に照会して、向かった先の病院へ直行することにしたのです。後日談ですが、母親からSOSの電話がかかってきたとき、なぜ自分で119にかけないのだろう?と思いましたが、そのとき既に心臓が苦しく、呼吸困難で意識が薄れかけていたのだそうです。つまり、救急車=ダイヤル119 ということさえ思い出せなかった…ということだったのです。聞くところによると、母親は二階のベランダに干してあった布団を取り込むとき、たまたま畳の上に侵入していたハチ(またしても足長バチですが)を踏んでしまったようです。つまり、両手で敷き布団を抱えていたので足元の様子がまったくわからなかった、というわけです。どうも、二階からあわてて一階に降りたころにはもうショック症状が始まっていたらしく、リビングにある電話器に辿りつくのがやっとだったようです。すなわち、母親は幼少のころ一度大きなハチに刺されたことがあり、つまり今回が2度めだったのです。でも何十年もまえのことですから、母親自身、昔ハチに刺されたことを忘れていたのでしょう。さて、病院には着いたものの、私は診察室まえで30分以上は待たされました。そうして、看護師から「もう面会できますよ」と言われ診察室に入ってみると、母親はまだ点滴中のまま診察ベッドでぐったりとしていました。診察室に入るまでは、内心「ハチに刺されたくらいでずいぶん大げさだな」とも思っていたのですが、母親の顔を見て、確かに「こりゃ、やばい」と思いました。顔色に生気というか精気がまったくなく、いわゆる 死にそうな顔 をしていたからでした。母親は徐々に回復するにつれ「本当に死ぬかと思ったよ…」と呟きました。その日は、本当に「ハチ刺されは2回目がおっかない…」ということを目の当たりにした日でした。何事も、体験してみないと実感が湧かないかもしれませんが、ハチ刺されは「2回目が怖い」のです。万が一、ハチに刺されて、それが2回めだったら…、躊躇せず即、救急車の助けを呼びましょう。なお、余計なお節介かもしれませんが、軍手や靴下・靴など屋外に置いてあるものは、使う前に必ず中を確認した方がよいと思います。私が遭ったように、ハチや毒虫が潜んでいないとも限らないからです。 桑原、桑原…。で、この話は終わるはずだったのですが、実はさらに後日談があるのです。つい最近、昨年の秋頃のある日のことです。私がいま勤めている会社はオフィスがカーペット貼りで、いわゆる土禁なのです。スリッパを履く人・履かない人、人それぞれですが、私はふつうスリッパを履かずにいます。私はその日の夕刻、無人の会議室に所用があって入室しました。その部屋には窓がなく、灯りを点けなければ真っ暗なのです。照明のスイッチは入口のドアからは手が届かない位置の壁にありました。私はその部屋に入室して、照明のスイッチを入れようと右足を一歩踏み出しました。そうしたら…、土踏まずのあたりにチクリとした痛みが走りました。「あれっ?誰かガビョウでも落としやがったな!」と、思う間もなく、土踏まずに針でも差し込んだような鋭い痛みが、膝のあたりまで上がってきたのです。「ええっ?!まさか…、この感覚は…、もしやハチじゃあるまいな?… でも、こんな密室にハチなどいるわけなかろうに?!」私は慌てて足を引っ込めてから、恐る恐る照明のスイッチを入れました。ハチではありませんように…、と祈るような気持ちで…。しかし、右足を踏み込んだあたりに…、いたのです。ハチ…らしき昆虫が……。私は、正直、愕然としました。「2度め」だったからです。「そいつ」は、死んではいませんでしたが、のびていました。近くでようく見ると、あの忌まわしい黒と黄色のシマのあるヤツではありませんでした。右足の土踏まずあたりの痛みはというと…、以前手のひらを刺さされたときのような激痛ではありませんでした。私の脳はスーパーコンピュータよろしく、猛烈なスピードで回転し始めました。以前ハチに刺されてからハチの毒についていろいろ調べたので、ある程度の知識はありました。おおよそ、ハチの毒でショック症状が出るとしたら、刺されてから30分以内がネックとなるはずでした。今の会社から救急車を要請すると5分もしないうちに到着しますが、どこの病院に連れて行かれるかわかりません。運よく軽症で済んだ場合、時間的に帰りの足に困ることになりそうです。また、たまたま掛かりつけの診療所が車で5分のところにありました。基本は内科ですが、外科的応急処置ができることはわかっていました。時刻は夕方5時半を回ったばかり。ちなみに、診療所の受付は6時まででした。どういうわけか、痛みもたいしたことはないし、私は車で診療所へ行くことを選びました。念のため、診療所に電話して事情を話してみると「すぐに来てください」とのことでした。なんだか見たこともないハチ?なので、「生け捕り」にしてポリ袋に入れて診療所に持っていくことにしました。私は診療所に着くまでの間「もし急に発作が起きたらどうしよう?」などと考え、ひやひやしながら先を急ぎました。診療所の受付に着くと、私はポリ袋に入ったままのハチを渡して「これに刺されました」と伝えました。果たして、他に待ち合いの患者もいて、少なくとも10分は待たされました。待つ間も、発作が起きないものかとヒヤヒヤしっぱなしでしたが、大丈夫でした。医師が言うには「ショック症状は出なかったようですね、もう大丈夫でしょう。ハチの一種・亜種のようですが、毒性は低いようです…。」私は、ホっとすると同時に、何となく拍子抜けしたような気もしました…。内心「慌てて救急車を呼ばなくて正解だったな…。しかし、いずれにせよ、不幸中の幸いで大事に至らなかったことを感謝しなきゃいかんな…」と思いました。それにしても、なんという低確率の引き合わせなのでしょうか!無人の会議室に、いつ紛れ込んだかもわからないハチ?が隠れていて、しかも、わざわざ照明スイッチの近くの、しかも床の上にいたのを、わざわざスリッパも履かずに踏みつけてしまった…ということなのです。よく調べたら「犯人」は、ハチというより「アブの一種」だったようです。以前のように、翌日足が腫れあがったりするようなことはありませんでしたが、それでも、刺されたあたりはタンコブのように少し腫れました。今回はむしろアクリノールがなく、「キンカン」と「ムヒ」があったので患部に付けることにしました。しかし、激痛や腫れはなかったものの、おおよそ1ヶ月近くは腫れが引かず、痒みもなかなか止まりませんでした…。まあ、今回のは特殊なケースかもしれませんが、やはり「不幸中の幸いだったのかなぁ」と思わざるをえません。ハチに刺された経験のある方はおわかりと思いますが、今では我が家族・親兄弟はみな「ハチが大嫌い」です。年間を通して「ハチ撃退スプレー」は欠かせません。(2010年2月1日) 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